外資コンサルタント, Ph.D. (仮)

新卒入社した博士の記録。秋から勤務です

なぜ大企業が希少疾患を狙うのか?

製薬業界の動向をざっくりと調べています。

少々暴論ですが、大きなターゲットになる疾患は、歴史的に感染症→がん→精神疾患というように変遷してきたように思っています。各々発展の余地があるとはいえ、これらがある程度解決を見てしまうと、人口的にインパクトのある薬剤治療が有効な慢性疾患がないような気がして、ジリ貧だなぁ、という印象を持っていました。

一方で製薬会社は、パイプラインを10年、20年と育てなければいけない。では今製薬会社が何を目指しているのか?と思って調べてみると、多くの製薬会社が「希少疾患用医薬品 (Orphan Drug)」をガツガツやっている。大企業でもそう。

素直に考えると、「大企業が、ニッチマーケットを狙う」というのは意味不明です。多少単価が高くても客(患者)が少なければどうしようもないでしょう。採算のあわない市場だからこそ開発されてこなかったわけですし、大企業の狙うところじゃない。ベンチャーを買えばよろしい(実際にM&Aは旺盛)。なぜ、大企業が大手を振って希少疾患なのか。

とはいえ皆さんがそっちを向くということは、何らかの合理性があるのでしょう。と思い、色々と調べてその理由を推察してみました。

●建前

希少疾患は例が少なく、理解が難しく、適切な治療法がなかった。救いたい。だからやる。

この類の話はお題目だと思っています。

●政府の各種優遇措置

Orphan drugの開発には助成金がある。開発支援もある。成功すると、政府がレギュラトリプロセスを短縮してくれて、税制優遇があり、販売独占権をくれて、薬価に加算がある。投下資本の回収が速く、確実。だからやる。

うわぁ…それかよ…という。でも、堂々と書いてるんだよなぁ。補助金や政府保護頼みの経営を志向しても後ろ指さされないのは、産業特性と言い切ってしまえる話なのでしょうか。

えっ、米国だとQualified Clinical Trial費用の50%が控除になる!?それはやるよね…

●価格交渉力

Orphan drugの開発に成功すると、販売独占権が貰える。患者には選択肢がないから、言い値で売れる。だからやる。

まぁ、多少は納得が行く話。とはいえ販売価格と利益は監視下にあるわけで、政府の保護・助成下でやるからには利益率はなんとなくこのあたり、とニギることになります。パイプラインとしては成功するから、経営的には◎でしょう。

●良い研究材料

Orphan drugの開発プロセスから、より広範な疾患に有効な薬剤開発につながる。だからやる。

これは筋が通る。希少遺伝性疾患の例はとても分かりやすかったです。例えば大理石骨病という希少疾患の研究から、病因遺伝子がいくつか解明され、その一つを抑制すると破骨細胞のはたらきを抑制できることが分かり、骨粗しょう症の治療薬になる、とか。

ただこれって穿った見方をすれば、合法的なノックアウトヒトモデルとして研究対象にする、ということですよね。

確かにマウスやラットでどこまでやってもヒト臨床でどうなるかはわかりませんし、資料内の例でもモデル生物でノックアウトしたら胎生致死だったりする例もあるんでしょうし、やっぱりヒトの疾患メカニズムはヒトをいじって調べるに限るわけです。もちろん、倫理的にそんなことはできませんが、これならできる。希少遺伝性疾患は、原因となるゲノム異常と発現系としての疾患の因果関係が比較的はっきりする分、モデルとして扱いやすいのではないかと。

 

●結論

開発支援されて、売れば必ず利益が出る。上手くいけば次のブロックバスターに繋がる研究になる。なにより患者も治るし感謝される。Win-Winじゃないですか。…ただ支援する側の政府にどんなメリットがあるかまではちょっと分からない。

希少疾患全体が6000~8000、そのうちの約80%が遺伝子起因という説もあるとすれば、当分は希少疾患を手がかりに広大なヒトゲノムを解読して創薬していく作業が続くように見えます。

 

 

参考資料

EU希少疾患用医薬品(オーファンドラッグ)戦略 (2014)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/eusj/2014/34/2014_270/_pdf

ゲノム医療実現推進協議会 資料 なぜいま、希少遺伝性疾患か?(2015)

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/genome/dai1/iinsiryou14.pdf

Impact of the Orphan Drug Tax Credit on treatments for rare diseases (2015)

https://rarediseases.org/assets/files/white-papers/2015-06-17.nord-bio-ey-odtc.pdf

厚労省 第16回難病対策委員会 資料 NPO法人 希少難病患者支援事務局(2011)

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001ut3k-att/2r9852000001ut7d.pdf