外資コンサルタント, Ph.D. (仮)

新卒入社した博士の記録。秋から勤務です

感想;『バブル―日本迷走の原点―』

社会人1年生必読の一冊では?

バブル経済とその崩壊.

私が生まれる前に起きたそれについて,ついぞよく知らずに過ごしてきました.

社会に出て,まがりなりにも経営者とお仕事をする上で,この背景くらいは知識として持っておかないとマズいだろう…ということで,コンサル云々というよりむしろ,社会人1年生としてのお勉強本として.

諸説あるので本書の公平性や信憑性についての議論に答えはないと思いますが,一連の事件の流れとしては筋が通っているとは思います. 

金融経済は門外漢ですが,面白い読み物でした.

バブル:日本迷走の原点

バブル:日本迷走の原点

 

 

 書評まとめ:Pros / Cons

  • Pros
    • 昭和の金融群像劇,楽しい
    • 戦後日本の金融・政治・経済・経営・財務史を総ざらいできる
    • 「バブルの時代を知ることなしに,現在の日本を理解することはできない」
  • Cons
    • 金融のテクニカル面はよくわからない
    • 良くも悪くも政治家・官僚・経営者目線の内容.バブルの肌感覚はわからない
    • 時間軸ベースで,体系的ではない
    • ロッキード事件等,重要事件の理解が暗黙の前提になっている

「バブル」は良い母国語教材

バブルとは,グローバル化による世界の世界システムの一体化のうねりに対して,それぞれの国や地域が固有の文化や制度,人間の価値観を維持しようとしたときに生じる矛盾とか入りであり,それが生み出す物語である.

 その上で,

バブルの時代を知ることなしに,現在の日本を理解することはできない.私たちは,日本固有のバブルの物語に謙虚に耳を傾ける必要があるのではないか.80年代のバブルの教訓は,まだ十分に汲み尽くされていない.

としている.とはいえ,この広義の「バブル」のもとでは,アジア通貨危機サブプライム,中国土地バブルにEU移民問題Brexitにトランプ台頭と…多くの問題が含まれることになる.

これら全てを「バブル」と呼ぶのが適切かどうかはさておき,今もこれからも「バブル」が次々とやってくるであろう現代に,母国で最近起きた「バブル」を母国語で学べるのに,学ばないでいるというのは愚かなことだなぁ,と納得.

それは20年前から兆しがあった

日本興業銀行(興銀)がもっていた独特の存在感を知る人の数も,次第に少なくなっているかもしれない.戦後の復興期から高度成長期に至るまで,日本の産業師のあらゆる場面に,興銀の姿があった.興銀は大蔵省・通商産業省公認の日本経済のコンサルタントであり,日本全体の資本を差配するベンチャーキャピタルだった.

教科書にも載ってないし,興銀なんて聞いたことあります?笑 平成生まれのゆとり(笑)ですいません.

興銀は戦前から統制経済の計画~遂行までを一手に担う組織だったようですが,高度経済成長の後に日本が国際競争にさらされるようになる過程で,その役割を終えていきます.その端緒となる事例が,「三光汽船のジャパンライン買収事件」であるとして紹介されます.詳細は本書やWebを見ていただくとして,この事件で日本の産業界が直面した課題は,以下の通りです.

  • 集約体制 ⇔ 非集約体制
  • 規制下の統制経済 ⇔ 規制緩和
  • 円建て経営 ⇔ ドル建て経営
  • 日本人のために雇用創出 ⇔ 外国人を雇い国際競争力強化
  • 間接金融/銀行融資への依存 ⇔ 直接金融/市場での調達

……既視感アンド既視感ですねェ.

時は1971年.46年前からおんなじような議論が続いているわけですね…

当時としては画期的な株価重視の経営によって時価総額日本一になった三光汽船が試みた国策カルテルの一角崩しですが,「闇の権力者」が出てきて事態の幕引きをおこなう…という市場原理もクソもないなんともアレな「日本的」慣行により幕引きとなるのです.

金融自由化のなかで失った制御

興銀を頂点とした日本経済システムは,グローバル化する金融経済との軋轢が大きくなってゆく.
そして84年の為替自由化,85年のプラザ合意,87年のブラックマンデーという外的要因による金融/実体経済の破綻を防ぐために,
特定金銭信託(特金)とファンドトラスト(ファントラ)という財務スキームが国策的に利用される.銀行の不倒神話,土地神話と特金・ファントラを活用したスキームによる損失隠しによって,信用創造の暴走が起きた帰結が,バブルだとしている.
「バブル」は国民の熱狂による泡沫的な過熱投資の産物…というイメージがありました.実際はもっと複雑な,政治・経済・産業が急速なグローバル化に長期間晒されたした帰結としての経済システムの崩壊がバブルなのだという印象に変わりました.

 破綻したのは信用システム

「地価は本来,現状の半額程度には下落しないといけない.しかし,信用システムを破壊しないために,あるべき価格の倍かも知れないが,とりあえず地価を維持する」
「買い上げるだけならなんとか銀行にもできる.ただし20年間価格をキープするための金利などコストは銀行だけでは賄えないでしょう.そこで,公的資金を利用する」

バブル崩壊のポイントは,単なる株価問題だけでなく土地問題であるとともに,規制下にありガバナンスが弛緩した銀行経営の問題だとの認識が,時の総理である宮沢喜一日銀総裁三重野康にはあった.しかし,

「我慢していれば,いずれ株価も地価も上がる.まだそんな楽観論が支配して,結果として不良債権処理が遅れてしまった」

とは宮沢元総理談.

近視眼的に株価の一時的な暴落だと捉えていた世論や政官民あらゆる団体は,この2人の打ち出した政策を許さなかった.損失の確定と計上を認めなかった.

内閣総理大臣日本銀行総裁が歩調を合わせても実現できない製作とは一体何なのだろう.それを阻害したのは銀行と官僚.あえていえば,政官民の鉄の三角形のなれの果てだった.

 

本書で登場する主な登場人物たち

この人達のWikipediaを見ているだけでも,バブルにつながる昭和の金融群像劇の壮大さを感じられるのでは.