外資コンサルタント, Ph.D. (仮)

新卒入社した博士の記録。秋から勤務です

雑感/論考;『申し訳ない,御社をつぶしたのは私です。』

コンサル批判本を読む

少なくとも研究では,新しいものごとを生み出す前にしっかりと時代の変遷・経緯を学ぶようにしていました.車輪の再発明を無自覚にすることほど愚かなことはないからです.また,きちんとした論拠に基づく批判は素直に聞き,真摯に考えることはとても大事だと思っています.健全な批判は,次の行動の精度・確度の向上に繋がるからです.

本書の筆者は,MIT→Deloitte Haskins & Sells(現Deloitte)→Gemini Consulting(JapanはBooz Allen Hamiltonと統合→現Strategy&)→ Pfizer→Johnson&Johnsonと渡り歩いた後,Operating Principalsという自身のコンサルファームを経営している方.いわゆる総合系ファームの中で組織改革や人事システム刷新などに携わった経験を赤裸々に書いていて,現場をのぞいたような気にさせてくれる一冊でした.

コンサル志望者,コンサル0年生が学ぶべき「現代社会」の教科書にも見えます.

申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。

申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。

 

この本の Pros / Cons

  • Pros
  • Cons
    • 結局は「対話重視の顧客志向」が最も良いものだ,という最近のトレンドに帰着する
    • 「過去の経営理論は誤り,最新のものも疑わしい,それを使うコンサルはひどい商売」というのが主たる主張だが,過去の否定と理論の更新は科学につきもの.単に期待しすぎ/させすぎなだけ.

コンサルは芝居で商売する

著者のモチベーションは,以下のようなものだ.

私がこの本を書いたのは,経営コンサルタントとして30年も働いてきて,いい加減,芝居を続けるのにうんざりしてしまったからだ.

まったく,どれだけ芝居を打ってきたことか―「この在庫管理システムを導入すれば,問題は解決します」とクライアント企業に断言しながら,肝心なのはサプライチェーンの部門間の信頼関係を構築することだったり,「商品開発プロセスエンジニアリング」と銘打ったプロジェクトを立ち上げていても,実際にやっているのは,営業,マーケティング,研究開発(R&D)の各部門の連携強化だったり,コンピューター並みの明晰な思考力て問題を解決したように見せながら,本当はクライアントの関係者の思惑を読み取るのがうまいだけだったり. 

そして,様々なプロジェクトの実態を叙述している.章立てからしてビンビン来る.

  • 第一章 「戦略計画」は何の役にも立たない
  • 第二章 「最適化プロセス」は机上の空論
  • 第三章 「数値目標」が組織を振り回す
  • 第四章 「業績管理システム」で士気はガタ落ち
  • 第五章 「マネジメントモデル」なんていらない
  • 第六章 「人材開発プログラム」には絶対に参加するな
  • 第七章 「リーダーシップ開発」で食べている人たち
  • 第八章 「ベストプラクティス」は”奇跡”のダイエット食品

なるほどなぁ,たしかに既にコンサルファームで働いている友人の証言ともそれなりに一致するし,こういうところは世界的にあるのだね…と内情を知った気になれるエピソードが豊富にあります.

結局は人次第

筆者によれば,業務プロセスの根本原因は結局は人次第で,以下の4つが多いそうだ. 

  • 不信
  • 部門間での目標の対立
  • 拙速
  • バカだと思われたくない

 身近にあった大学発ベンチャーを立ち上げ期~拡大期まで見て,一時期は一緒に仕事をした経験からして,確かにその通り.

また,優れたマネジメント/マネージャとは,結局は人次第で,以下のようにまとめている.

まずは自分自身のことを管理して,務めを果たさなければならない.次に,周りの人たちと良い関係を築く必要がある.自分や部下たちの将来も考える必要はあるが,それほど重要な事ではない.優れたマネジメントスキルとは,良い関係を築くためのスキルだ.ひと言,それに尽きる.

そしてよい人事評価システムは,結局は人次第で,評価の書式や人事考課会議やチェックリストなどの社員の標準化をすすめるツールは廃すべきである,としている.

…そもそもヒトが対象なのだから,そこに帰着するのは当然のような気もする.まぁ,これまでの経営論がそこに至るまでに時間がかかりましたね,という話でしょうか.筆者の経験談からは10年以上経っていると推察されますが,現在はどうなんでしょうか.

客商売であるが故に乖離する

クライアントに雇われないと仕事がないので,当然ファームは「売れる」仕事をして,「売れない」仕事はしない.
筆者の主張として,「売れる」仕事=体系化された理論にもとづき,ツール化/自動化され,定評があるもの.一方で顧客の真の課題を発見し解決するのは「売れない」仕事―説明が難しく,手間がかかり,単価は低く,キャッチーでないもの.という見方が垣間見えます.
具体的には,クライアントである経営者がコンサルタントをどのように選ぶかを,等身大のエピソードに落とし込んで揶揄した部分があります.

<最後のバカげたシナリオ―コンサルタント選び>
うちは結婚して10年,小さな子供がふたりいる.最近夫とはケンカばかり.お金のこと,家事の分担,ちっともラブラブじゃないことなど…(中略)...やはり外部の助けが必要だ.そこで,結婚カウンセリングを試すことにした.よいコンサルタントはいないかと自分たちでも探し,人にも推薦してもらった.見つかったのは次の5名のカウンセラーである.
カウンセラーAは,結婚生活のあらゆる悩みを解決する.成功間違い無しの5ステップのプログラムを用意.…(中略)...
カウンセラーBは,幼い子どものいる家庭の夫婦不和が専門.これまでに数多くの夫婦を扱ってきたため,問題の原因をぴたりと言い当てるという.…(中略)...
カウンセラーCは,独自のアセスメントを用意しており,夫婦で診断を受ける.…(中略)...
カウンセラーDは有名で,著書が何冊もヒットしている.カウンセリング料は高く,予約もいっぱいで,すぐにはカウンセリングを受けられない.そのため,とりあえず独自のソフトウェアプログラムを購入するように勧められた.…(中略)...
カウンセラーEは,まず夫婦に会って問題について話し合い,そこから解決に導きたいという.
さて,あなたならどのカウンセラーを選ぶだろうか?

この本の,そしてコンサルタント側から見た答えはEなのだが,果たしてこの妻はEを選ぶか.10人の友人を思い浮かべたとき,何人がEを選ぶか.方法論も成果もよくわからないEに金を払うことをどう正当化すれば良いのでしょうか?

論考

方法論も成果もわかりにくいものを売るためには

前提として,Eが選ばれにくい環境が下にファームがあるとする.その時,アプローチEを貫く策は2つ.

  • ファーム側が「トロイの木馬」を使う:A~Dに見せかけて売り込み,実態はE
  • Eを選ぶクライアントとのみ仕事をする

前者は顧客は木馬を見て安心して大金を払うが,兵士の負担が大きい.自身の武装に加え,チームで巨大な木馬(=「ツール」,システム)を導入/運用しなければならない.人海戦術である.
後者は客が少なく,業務効率が悪く,チャージできる根拠を示すのが難しい.それでも金を払う気前の良い客しか来ないという点では儲かるのかもしれないが,事業の拡大は望めないはずだ.

環境を変える戦略―Eばかりが選ばれる環境を形成する,という方法もあると思う.最新の経営理論として,「これがベスト・プラクティスだ!」と経営者に刷り込めば良いのですね.
……あれ?それって筆者がこき下ろした「最新の経営理論を世の中に浸透させ,金を儲ける」行為そのもので…歴史が,”奇跡のダイエット”が繰り返されるだけなのでは……

医療とコンサルティングの類似性

医療とコンサルティングって似ているのかもな,と工学博士は思いました.

いずれもヒトとその環境を対象とする学問であるが故に終わりがありません.ヒトと環境が相互作用により変質するからです.医学疫学の発展により各種欠乏症が影をひそめると生活習慣病が出現し,抗生物質が発明されれば耐性菌が現われ,科学技術の発展とともに公害病放射線障害などが生まれてきたのと同様に,経営学も何かの欠乏がなくなると飽和による悪影響が出現し,特効薬が生まれると耐性を示す新たな問題が現われ,科学技術の発展によって未知の経営課題が生まれるのではないでしょうか.
この対比をもとに考えれば,「本当の顧客志向とは何か」という問いに対になるのは「究極の医療とは何か」という問いでしょう.また,コンサルティングプロセスは診断と治療と経過観察だと考えられます.

すると本書の指摘は「詳細な診察をしてから効果のある治療を選択しましょう.万能な治療法はありません.紋切り型に処方して経過観察で儲けるのはズルい」という指摘であると言い換えられます.

しかし実際,高熱を出して医者にかかることを考えてみてください.風邪だということを確認してもらい,インフルエンザ等の高リスク疾病でないことがわかり,特効薬がないことがわかり,つらかったらまた来てね,と処方箋(対処療法)をもらう.これ以上何が起きるというのでしょうか.「医者など行くな,家で自家処方してよく食べよく寝ればよし」…という主張もありますが,医者にかかって安心したい人や,処方箋を出す以外に手段が無い医者を責める道理はないように思います.

特に最新の医療は,やってみないとわからない不確実性のかたまりです.明らかに効くもの以外は,導入後数年の症例研究を集めてメタアナリシスをし,経済性等々含めてコンセンサス形成がなされてガイドラインになるまではなんとも言えないものが多いです.また,そうして定石になったものでも,思わぬ因子のせいで適用できない/悪影響を引き起こす場合もあります.

立ち返ってコンサルティング.医学に比べれば経営学は事例研究もメタアナリシスも(おそらくは)貧弱で,それを依拠に何かを実行しようとするのは確かに無謀なように思えます.しかしそれはエビデンスの強さの問題でしかない.ある程度は,やってみないとわからない.それは本質的に排除できないし,ツールや経営学の問題ではないのではないかと思います.

対話を通した課題発見→解決プロセスが浸透するとどうなるか

筆者は,顧客にあわせて,顧客自身が抱える課題を共同で発見して,解決策を協業を通して模索するプロセスこそが重要な価値である,としています.

これはすなわち内在的課題を積極的対話を通して解決することでしかないため,これを内部で完結してできてしまえば,コンサルタントは不要になるわけです.

この「顧客志向」―言い換えれば対話を通した課題発見と解決プロセスの話は,もうすでにどこでも聞く話になっているように思います.これが内製化しつつある環境下では,コンサル業はどうなるのでしょうか.※以下は内情を全く知らずに書いている妄想です.

シナリオ1

「顧客志向」がデファクトに.コンサルに全社戦略や組織改革を発注するのは時代遅れになり,補助的な業務が増える.結果,案件単価が下がり,市場が縮小する.

戦略系と言われていたファームの案件が変わりつつある,という話はこういった流れのなかで生まれているのでしょうか.

シナリオ2

何らかの要因(例えばとてつもなく面倒/専門的)で,大きな組織にはいつまでもコンサルタントが必要.

総合系ファームの事業拡大,戦略系ファームの事業シフトは,組織改革や人事がとても難しく面倒なこと=儲かる商売だということの証左かもしれません.また,専門ファームの活躍,各社テクノロジー部門の相次ぐ新設などは,キャッチアップが難しい知識/技術に対する対価としてビジネスが成り立っていることの現われでしょうか.

シナリオ3

顧客に内在する課題ではなく,外在性の課題の発見・解決が求められる.

テクノロジー部門の仕事は詳しくはわかりませんが,外部環境がテクノロジーに順化していく中で,クライアントが順応するためにデジタルコンサルタント的なものを雇うのは自然な流れのように思います.またデザイン系ファームのように,内在的な要素だけでは解決ができない,顧客との関係や世間への露出方法などに関わる新たな業態というのも出てくることが考えられます.